「ここを去る」
掛け慣れた椅子を
回してみる
引き出しには古い手紙
封筒に入ったままの写真
僕のネームプレートを裏返す
下駄箱の泥
ロッカーの一〇〇円ハンガーをおろし
未整理の書類を分類する
誰もいない玄関を掃き清め
微妙にかたいだ額縁をなおす
誰もいない小径を
歩いたことのないところを
今は落ち葉を踏みしめて
ときどきあたりを見納めながら
初めて来たときの胸の鼓動と
緊張感と
新しい世界の新鮮な空気を
懐かしく懐かしく
思い出している
毎日がドラマの
終わりのないドラマの
やり残した思い残すことばかりの
あまく つらく ゆめのような 毎日
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