創作昔話10「素直な蛇」その2

 チリンチリン。チリリ。チリリリリ。それは山に迷い込んだ一人の女の子。おじいさんからいつも聞かされていたこと。それは鈴のこと。「山の中では魔よけに鈴を鳴らすもんなのじゃ。」「魔よけってなあに?」「それはなあ。人に悪さをするものよ。怖がらせたり、悲しませたりのう。」「どうして、山には魔がいるの?」「ふぉふぉふぉっ。おまえは賢いのう。鈴を鳴らせば、聞こえてはならぬものも聞こえないじゃろ。考えてはいけないことも考えないじゃろう?」
 本当にそうでした。お守りにつけられた小さな三の鈴の一つ一つがチリンチリン、チリチリリと鳴って、何かを打ち払っているようにも思えます。鈴さえ鳴らしていれば、泣けそうに寂しくなっても何とか我慢することもできました。だから、こんな深い深い山の中でも鈴鳴らし続けてさまよい歩けたのです。道らしい道などとうの昔になくなって、獣道とでもいうのでしょうか。草生い茂るとぎれとぎれの道。
 でも、小さな女の子は引き返すことなく、進んでいったのです。何かにひかれるという感じもしますし、逆に引き返してはならぬと背を押すものも感じるのです。しかし、そこは幼子、わけもわからずひたすら歩くだけ。いくつ山を越えたことやら、座り込んでは歩き、歩いては座り込んでの一日となりました。
 サエといいました。背は大人の腰のあたりといいますから、よほど幼い。腰まである黒髪は先をきれいにそろえられ、若草色にあかねの縞模様の着物をすねまで短く着て、山吹色の三尺帯を蝶結び。杖にした木の頭にお守りを結わえております。疲れ切っていたせいもあるのか、五郎太が近寄っても驚きもしません。
 「どこからきたのじゃ、小さいの。」五郎太が尋ねました。「向こうからよ。」「わしは向こうからじゃ。」と舌先で五郎太。「その皮は今にも抜けそうじゃなあ。」「そうよ。」と言ってするすると帯を解くサエ。うろこ模様のなくなったサエを見て、五郎太は少し戸惑いました。大事な大事なものを皮といっしょに捨ててしまうなんてとても五郎太には考えられないことだったからです。それどころか、その素直すぎる屈託のない動作に、生まれて初めて感じる恐れさえ抱いたのです。
 疲れきったか五郎太の前でしゃがみ込むサエ。「うむ、妙な曲がり方をするもんだ。」こんなにあちこちに折れ曲がる体を五郎太はこれまで見たことがありませんでした。何より、体の向きは横と縦。小さい頃の五郎次とも全く違い、仲間じゃないのはもはや明らかでした。

どこにいるの? について

「がんばったら疲れる。疲れたら休む。休んだらがんばる。」ということにしておこう。
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創作昔話10「素直な蛇」その2 への2件のフィードバック

  1. 祥子 より:

    あ、あれ・・・?
    なんだか予想外の展開ですね(@@)

  2. どこにいるの? より:

    出会いはいつも予想外のことが多いよね。

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