突然思い出したこと37「テンダーパウダー」

 アメリカにはとても便利なものがある。テンダーパウダーというもので、調理の30分ぐらい前に振りかけておくと、硬い肉でも軟らかくなるのだ。」こんな記事を当時読み始めた学生向け英字新聞に見つけ、最新情報を得たかのように「アメリカはすごいなあ。進んでるよね。」と祖母に言うと、「うちじゃ、これを使ってるよ。」といって油で汚れた小さな缶に入れてあるビニールの袋に入った白い粉を見せてくれた。「ミカンにつけてもおいしいよ。」と言って棚の上にまたのせてしまった。
 今でもビニールの袋に青い字で重曹と書かれていたのを鮮明に思い出すことができる。口元を絞めていた輪ゴムの巻き方まで脳裏にこびりついている。「なんだ。この記事は。」というだまされた感じに少々腹が立ったが、記者は別に嘘を書いているわけではない。ただアメリカではテンダーパウダーという商品名の便利なものがスーパーで手軽に購入できるということを紹介してくれていただけなのだ。しかし、明らかに「日本にはないけれど」という前提で書かれたものだった。もちろんテンダーパウダーと重曹が同一のものかどうかわからない。でも、同じ白い粉で同じ働きをするのなら別段問題はない。
 それはそうとして、昔から重曹を使っていた祖母に恐らく得意げな顔で報告した自分が滑稽に思えて笑わせてくれたから、多少この記事に腹も立ったがまあよしとしようと思った。
 そういえば夏ミカンを食べるとき「たんさん」というものを我が家の大人たちはつけて食べていた。この小さな缶はその時にも出ていた。僕は夏みかんは苦手だったので、あまり気にとめていなかったのだ。「たんさん」とは炭酸水素ナトリウムのことだったんだとやっと了解した。酸を中和して甘くなるというわけか。子どもにそれをあまり説明せずに、大人だけで味を調整して食べていたということだ。その時、これまで随分損をしてきたかもしれないと思ったことも突然思い出した。
 外国製品を舶来ものと言い、ありがたがっていた時代の名残だろうか。遠くから来るのだから確かに高価なものになり、途中で盗られたり、途中で買われたりして希少なものだからますます高価なものになり、だから文字どおりありがたかった。そうした妙な価値は取り除かれ、生の製品価値で判断される時代になっても、何となくそういう感覚が残っているかもしれない。
 英語で書かれていると正しそうに思えたりする。その主張は既にその国で評価されているというのだから、一通りのものに違いないという、昔の感覚が残っているのだ。今は評価されていない生のものも多く交じってやってくるのだから、早くそうした感覚をぬぐい去らねばならないのだけれど、染みついているものは意識的に排除しないと、うっかりとその感覚に左右されてしまうことがあるかもしれない。
 それにしても、昔のことを突然思い出すというのは、老化現象が進んでいるのだろうか。もう107歳になろうというのだから仕方ないか。

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「がんばったら疲れる。疲れたら休む。休んだらがんばる。」ということにしておこう。
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