怪しい広辞苑212「鳥に関する記述全般」

 広辞苑第四版における鳥に関する説明のあり方は、このままでよいのだろうか。
 第一に、記述項目が不統一で、各種の鳥の記述を比べても、うまく比較できない。
 例えば、食性などは書いてある鳥と書いてない鳥がある。書いてある場合も、「捕食」「捕食する」「食する」「食う」「とる」「捕る」「採食する」「餌とする」「○○を主食とする」「死肉を食う」「死屍食」「雑食性」「雑食性鳥類」その他さまざまに表現している。しかし、広辞苑は辞書であるから文学的な文章として豊かな表現にするという配慮は無用だ。次のように考えると、無用というよりも弊害があるといった方がよいだろう。
 辞書は説明的な文章でなければならないから、もう少し統一性のある表現にするために、表現内容を分類し、その分類した数の分だけの用語を選択して用いなければならないはずだ。そうしなければ、本来は差異のない内容であるのに、表現の微妙な違いにとらわれ、ありもしない意味の差異を妙に深読みしてしまう可能性が出てくる。逆に、本来は差異のある内容であるのに、表現が大方似ているということに気を許し、その差異を無視した大きな括りで理解してしまう可能性も出てくる。
 こうした可能性を残したままに仕上げられてしまった辞書だとすると、広辞苑第四版は意味の説明をする辞書として致命的な欠陥をもっていると言わねばならない。同様のことが広辞苑第四版の他の説明にも見られるようならば、これは大きな問題としてとらえなくてはならない。特に多くの人々から高い評価を得ている広辞苑にあってはそんなことがあってはならないのだ。
 第二に、鳥の色に関する記述だ。色の場所を表す語句として、「頭上」「頭」「頭部」「頭頂」という似たような語句が四種類使用されているが、その使用方法に疑問がある。基本的には、その使い分けについての疑問だ。
 「頭」と「頭部」と「頭頂」の三種類については、色を説明する場合に何の不自然さも感じない。しかし、「頭上」については、色を説明するときのことばとしてはかなりの不自然さを感じる。
 もちろん、頭上に特別の羽根や肉の塊などが余分についていた場合、その特別の存在を説明しつつ、その色を説明するならば、「頭上」という語句が使用されていてもなんら不自然さを感じないだろう。しかし、広辞苑第四版においては、頭上に特別の羽根や肉の塊などがない場合に「頭上」ということばが使用されているので、どうしても奇異な感じを受けてしまう。こうした感覚をもつのは僕の偏った言語経験によるものかもしれないが、どうしても気になってしまう。
 「頭上注意」といったときの「頭上」は、上方にある危険物に注意するのであって、自分の頭自体の「トップ」ではない。つまり、この場合の「上」は「オーバー」の意味合いだ。「頭上を見上げる」「頭上から降ってくる」も同じ意味だ。「頭上に降りかかる」といったときの「頭上」の「上」は、「オン」の意味だ。これに対して頭の上部の場合は「トップ」の意味でなくてはならない。この「トップ」の意味で「頭上」という使い方があるかどうかということが問題だ。
 「頭上を鳥が飛ぶ。」というときの「頭上」の「上」は「オーバー」であって、「オン」や「トップ」ではない。
 「頭上を蟻がはう。」というときの「頭上」の「上」は「オン」であって、「トップ」や「オーバー」ではない。
 ところが、「頭上が痛い。」ということはない。通常は「頭の上の方が痛い。」「頭のてっぺんが痛い。」と表現すべきところだ。したがって、この場合の「頭上」の「上」は「オン」や「トップ」や「オーバー」を表現することばとしてふさわしくない。
 どうにも「頭上」の「上」を「トップ」としてとらえる言い方というものが見つからない。頭部自体のトップの部分を表現するときは「頭部」「頭頂部」「頭の上」「頭の上の方」「頭の上の部分」などというような言い方をするのが一般的な日本語の表現ではないだろうか。
 しかし、もともと「頭上」の「上」にも「トップ」という意味合いがあったとも考えられる。ところが、「オン」と「オーバー」のどちらかの意味で使われることがあまりにも多くなったために、逆に「トップ」の意味が薄らいでしまったとは考えられないだろうか。
 「馬上」「船上」「機上」などのように乗ることが前提のものに「上」がついたときの意味は、「オン」であって「トップ」や「オーバー」ではない。日常生活で多用される二字熟語としての「○上」も、「机上」「山上」「台上」「路上」「水上」「地上」「紙上」「氷上」のように「オン」の意味で使うことがとても多い。もちろん、船や飛行機の場合は中にいるのだが、船や飛行機の床の上にいるということになる。
 本来は物をのせることを前提としていない「頭」も、この傾向に同調して「頭上を蟻がはいまわる。」「頭上に降り注ぐガラスの破片」のように、「頭上」の「上」が「オン」の意味ばかりが使われるようになっていった。このようなストーリーはどうだろうか。だとすればだが、広辞苑第四版のような「頭上は何色」というような言い方に対する違和感が生まれてくるのも自然な成り行きであるように思う。
 一方、「オーバー」の意味での「頭上注意」は、生命の危険に関係する情報を知らせるものだから、日常的に多用されなくともインパクトのある使用例となり、その「上」に「オーバー」のイメージが強く残ることになる。確かに「頭上から振りそそぐガラスの破片」などは恐ろしいばかりだ。こうしたいろいろの事情で「頭上」の「トップ」としての意味が薄らいでいったというストーリー展開を考えるとおもしろそうだ。
 もっとも、「頭上注意」ということばは、「あなたの頭の上の部分が何かにあたらないように注意しなさい」という意味だとも受け取れる。しかし、この「頭上」という言葉が「足下」ということばと対になる意味を持っていると仮定すると、この「上」に「トップ」という意味は最初からないということになる。
 仮にそうではないとしても、もともと「頭」は人体自体の「トップ」の位置にあるから、わざわざ「トップ」の意味を込めようとして「頭上」という表現にしなくても「頭」だけでトップの部分を表現することが可能だ。したがって、「頭上」の「上」にトップの意味があったとしても、その意味合いが薄れていき、「オン」と「オーバー」だけに意味の幅が絞られていくという現象は起こるべくして起こるのではないかと思うのだ。
 例えば、広辞苑第四版227ページ「鷽(うそ)」の説明に「頭上と尾・翼の大部は黒色」とある。広辞苑第四版の他の鳥の説明では「頭上」の他に「頭」「頭部」「頭頂」という似たような語句が使われている。そのようないろいろの単語で説明されてはいるが、広辞苑第四版の各種の鳥のイラストを見ても、頭の色が他の部分と異なる面積に対して、そのように単語を使い分けるほどの大差はないように見える。
 「鷽(うそ)」の「頭上と尾・翼の大部は黒色」という説明の仕方には、だから違和感を感じるてしまったのだろうと思う。色の説明をするのであれば、ここは「頭の上」と表現すべきだと思う。どうしても「頭上」ということばを使いたい場合は、「頭上の羽と尾羽・翼の羽の大部分は黒色」などとするのがよいかもしれない。
 英語ならば、「トップ」「オン」「オーバー」と使い分けるが、日本語だと「上」で括られてしまうというところに混乱の原因がある。たとえそうした原因があっても編集担当が気を配って表現を適切なものに変更すれば混乱は解消できるはずだ。
 ところで、広辞苑第四版では、鳥のどの部分の羽根が何色であるかを説明するときに、「頭」のときと同じように、「背」「背面」「上面」「腹」「腹面」「下面」というさまざまな言い方が使われている。このことによって、幾つかの別々の資料からかき集めて広辞苑第四版の鳥の説明にしたという感じが出てしまう。このような表現のばらつき加減も辞書の説明としてはかなり違和感がある。
 また、よく見ると、「背」と「腹」、「背面」と「腹面」、「上面」と「下面」という対応が、鳥によっては崩れているように見えるものも若干ある。これはいったいどういうことなのだろうか。鳥の色の配置が微妙に違うということに由来する表現のばらつきなのだろうか。
 何を資料としたかは別として、広辞苑という一つの辞書に説明をまとめ上げていく場合には、説明の仕方の統一性や表現の統一性というものをもたせる努力がなければ、編集したことにならないと思うのだが、どうだろう。
 広辞苑第六版ではどのように編集されているのだろうか。変更がなければ、ぜひ広辞苑第七版ではこうした不自然さを感じさせる表現は改善してほしい。もっとも、「腹」「腹面」「下面」にそれぞれ意味の違いを持たせてあるのなら、その違いがどういうものであるかという説明がどこかでなされていなくてはならないだろう。辞書の説明として使い分けるならば、説明する責任というものがあるはずだ。

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