心は必要があって生まれた。いたわる心、思いやる心、我慢する心。豊かで便利な生活の中では、それらは必要ないものだ。不要なものとなれば、珍重されるだけの低い価値のものとなっていくばかりだろう。残念ながら、たしなみ程度のものというわけだ。だが、そのたしなみあってこその品格、いや、人格だというのが、現況なのかもしれない。
もう少し言えば、必要に迫られて生まれたものなのに、今となっては次第に飾りの色彩が濃くなり、心の持ち主たちとしては、懐かしんだり、残念がったり、取り戻したくなったりする対象に成り下がりつつあるということだ。あるいは逆に、いや、だからこそ、心が心以上の価値を求められるようになってきている可能性もあるということだ。
豊かで便利であることは理想だが、よく考えてみれば、実は異常な事態だ。しかも、どこまで豊かであればよいのかという取り決めもなければ、豊かさの定義自体も曖昧だ。また、便利であることについては、技術的、経済的制約を取り除くための努力と成果に快感を覚える以上、どこまでも追求され続けるものだ。
何事も極端であれば、極端であることによって、適正範囲を超える誤ったものとなる。物差しの定まらぬ豊かさ、止めどなく追い求められる便利さは、極端な状態に限りなく、無反省に近づいていく危険性をはらんでいる。
一歩間違えば、既に培われている心は、用済みとなり、次第に先細りとなり、はがれ落ち、その中心にあるところの、快不快の感覚、喜怒哀楽の感情が、透けて見えてくる。そして、バランサーであったいくつもの心の統制を受けにくくなった状態でうごめきをみせるようになるだろう。
煩わしい人間関係、煩わしい手続き、煩わしい決めごと等々。これらを適度に処方することが、賢い道なのだろう。そうした煩わしさ、面倒くささを必要以上になくしていこうとしたり、逆に、必要以上に重んじたりするのは、もとより愚かなことだ。
そのような意味においては、たとえば定期的に催される祭りなどは、その本質とは別に、先人の良き知恵としても、とらえることができそうだ。祭りは決して新しい文化を創ろうなどと思って催されるようになったのではなかろう。必要に応じて生まれたものだ。祈りと感謝を捧げるために 貧しい中にも経済の仕組みに組み込まれ、とある心を忘れぬよう、とある心を表現し続けてきた。これに加えてまた、その祭りのなか、つまり準備から幕を閉じるまでの一連の営みを通して培われる通常の日常的な心もあるから、やはり祭りは意義深いものだ。
生きることの不便、生かすことの不便、争うことの不便、争わぬ事の不便。その他、さまざまな不便を何とか乗り越えようと、知恵とともに分泌された心たち。それらを、自分のためにも周囲の人々のためにも、今のためにも将来のためにも、いろいろにたくさん発露し得ることが、人としての豊かさであったのに、それが不要のものとなってくれば、これから何を豊かさとしていけばよいのだろう。
心豊かで便利な世の中。その「心」という語をいつの間にか省略し、「豊かで便利な世の中」を目指してきたのだから仕方なかろう。もともと「心豊か」であることと「便利」であることとは、相性の悪い組み合わせだ。それを敢えてセットで唱えることによって、バランスを重んじたものだろう。それが「豊かで便利な世の中」という、一辺倒、且つすわりの悪いスローガンになってしまったことが、不幸の始まりだとしたら、恐ろしい。
もっとも、不幸だとか、恐ろしいとかも、狩りをする獣たちがそうであるように、当たり前であれば、他の命を奪う己の運命を不幸だとか恐ろしい運命だとかは思わない。狩りをする獣にとってそうした種類の心は不要だからだ。
そうなると、事は簡単だ。これから、どんな心が必要になり、どんな心が不要になるか。それを想像しながら、語り合いながら過ごせば、よいだけのことかもしれない。
待てよ。心が豊かということは、それだけ厄介な世の中を生きているということの証拠なのかもしれないなあ。単純な世の中になればなるほど、豊かな心は望めないだろう。素朴で単純で平和じゃないか。一方、心が豊かであることの落とし穴は、心の屈折だ。中途半端な豊かさでは、心の病を警戒すべきだ。強くて柔軟な心が未発達だと、この複雑化した世の中では、心の病を引き起こすだろう。
これだけ複雑化した世の中を単純にするにはどうしたらよいのだろう。それはそれで、想像するだに恐ろしい。
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