突然思い出したこと162「短気小僧」

 「短気小僧」のいる地獄絵図。これを突然思い出した。記録では、約八年ほど前にも思い出している。何と久しぶりな「こぞう」だ。
 記憶の中では左のページの左下。やせっぽちの茶色(緑色だったかもしれない)の体で小高い場所に立ち、しきりに何か怒っている。小僧といっても、どう見ても大人だ。素足で髪の毛はなく、腰には灰色の布を巻き付けている。左足を上げて地面を踏みつけようとしている姿は、いかにも短気そうな仕草だ。
 右のページの右端には閻魔大王がどっかりと腰掛け、ものすごい表情をしている。右のページの下には針の山、左のページの上には血の池地獄が配置され、灰色になった亡者たちの群がよろよろと何かにもたれながら苦しんでいる。
 だが、どうしたことだ。ぼくの頭には「短気小僧」のことがだけが深く刻まれていて、あとは曖昧だ。この地獄絵図の絵本には、いくら幼児向けとはいえ、恐ろしい絵がちりばめられている。ところが、僕の記憶に鮮やかに残っているのは、数々の鬼でもなく、食いちぎられた亡者の手足でもなく、閻魔大王でもない。繰り広げられる恐ろしげな拷問の数々、亡者たちの絶望的な表情でもない。「短気小僧」なのだ。
 幼児向けの絵本だから、「たんきこぞう」と平仮名書きされていた。その六字が短気小僧の足下に印刷されていたのも覚えている。それを読んだ僕は、「たんき」の意味がわからず、「たんきこぞう」って何?と夕飯前の母親に聞いた。そこまでは覚えている。いったい人の記憶というものは、どのようにして保存されているものなのだろうか。数十年経ってから突然に思い出すとは、それまでどこにどのような状態で保持されていて、どのように忘れられ、どのように思い出されてくるのだろう。
 ただ、この地獄でただ怒っているだけの筋肉質の小男に違和感を覚え、聞き慣れぬ名前に疑問を持ち、その存在に謎を感じたために、記憶に刻まれたのだろうとは思う。
 この「たんきこぞう」の記憶は、悪いことをすると地獄に落ちるというありがたい教えとともに、深く深く僕の頭に刻まれている。
 いったい彼は何に対して短気を起こし、このように怒っているのだろう。地獄の責め苦に苛まれている亡者を口汚く罵り続け、精神的にいたぶる存在なのだろうか。そもそも、妖怪や怪物のたぐいなのだろうか。元々地獄の住民なのだろうか。それとも何かのなれの果てなのであろうか。
 さて、針の山は、踏みしめるたびに身の重さで深く針が刺さる。そして、山を登るためには、その足を針から抜き、次の針を踏み抜かねばならない。鬼は恐怖におののく亡者どもを、針の山に登らせようと金棒を振り回して亡者を追い立てる。無残に体を打ち砕かれてばりばりと食われるよりはましだろうと、自ら、肉体的な苦痛を与える道を選択するしかないのだ。
 絵本の中では、そこで流された血がたまってできたのだろうか、血の池地獄で亡者たちは溺れかかっている。どうやらその池にたまっている血は固まらないらしい。いつか大きな瘡蓋になってしまうのではないか、亡者たちがばたばたともがいているから固まらないのだろうか、溺れさせるために固まらないような特殊な血に加工してあるのか等々、幼い頭を随分と悩ませた。泳ぎの達者な亡者なら、簡単に泳ぎ切ってしまうだろう。いや、そこは地獄。鬼どもがまた突き落とすのだろう。
 焦熱地獄では、身を焼かれ、無間地獄で究極の責め苦を味わう。死んでからではなく、この世にいる間から地獄に陥るというシステムになれば、いくら物わかり悪い人間であっても罪を犯すことはなくなるだろう。
 たんきこぞうは、死んでから責め苦を与える現システムに腹を立てているのか、それとも、地獄に落ちた亡者どもに、彼らの犠牲となった無辜の人々の怒りを代弁して怒っているのか。「死んでしまえば仏様」とは言うが、それでは被害者や被害者の家族の腹の虫が到底治まらぬだろうからだ。
 そう思うと、気むずかしい表情で短気を起こして怒っている「たんきこぞう」に、親愛なる気持ちを抱けるようになってくる。それにしても、「たんきこぞう」なるものが、どのようなものなのか、大変気になる。本当のいわれを調べてみたいと思う。

どこにいるの? について

「がんばったら疲れる。疲れたら休む。休んだらがんばる。」ということにしておこう。
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