恐怖シリーズ240「法医のL氏」⑯

 死なないことが幸福なのか。不老不死が幸福なら、全人類は不幸だということなのか。「永遠の命が得られますよ。」こんな言葉をキリスト教系の伝道師のような人たちから言われたことがあるが、永遠の命とは果たして何なのか。それは取りも直さず、死ぬということではないのか。
 死なない人は見たことも聞いたこともない。ということは、誰も神を信じていないということではないのか。それとも信じ方が間違っているのではないか。では、正しい信じ方は誰が教えているのか。その人は死なないのか。それとも別の神を信じているために、結局は死んでいくということなのか。すると、どうやって信じるべき神を見つければよいのか。
 だが、神を信じることで永遠の命が得られるのなら、神を信じていながらも皆死んでいく以上、永遠の命というものは、やはり死ぬということではないのか。すると、信じているものと信じていないものとの差がないということになってしまうではないか。まさか死んでからの差があるということなのか。疑問百出だ。
 この世で今のままの生活スタイルを送ることが、永遠の命を得るということなら、それは人口爆発を加速するだけで、何の意味もないどころか、他の人の命を脅かすことになってしまう。ということは、この世で今のままの生活スタイルを送ることではないということになる。では、食べるものも食べず、しかもエネルギー資源を使わずに生きていくという、普通に生きている人に迷惑をかけないような生き方が可能な、何か特殊なスタイルで生きていくことなのだろうか。どこまでも疑問は尽きない。
 彼らの話は何時間聞いていても、結局は理解できず、彼らも自分もともに混乱していくことになってしまうばかりだ。最後は「信じることです。信じることです。」とつぶやいて立ち去る姿は、とても救われているような感じには見えなかった。そんな人たちが異国で布教活動をしても、自信の修行にはなったり、実績となったりするのかもしれないが、説得力のある布教は難しいというものだ。
 だが、宗教を興そうというL氏は、自分はどのように布教すればよいのかということを、ここに来て、やっと考え始めた。
 そもそも永遠の命とは何か。そのようなものを望んでいる人はいるのか。ほとんどの人は、一通りの人生を歩んだ後には、できることなら早くこの世から去りたいと願っているのではないのか。「ぽっくり寺」などというものが流行したことがあるが、それが本音ではなかろうか。永遠の命など、少なくとも日本人の望むところではないのではないか。
 そうした個人的な命の存続よりも、子孫の繁栄、つまり家の存続や国家の存続、人類の存続を望む人の方が多いと感じるのだが。だが、実際にそれは調査していないので、実態は不明だが、何となくそう思うのだ。
 ただ、家の存続、といっても建物ではなく、家系の存続だが、そうしたものや国家の存続といったものに対して、永遠の命という表現を与えても、大きな違和感はないように思う。だから、「永遠の命」などという思わせぶりな表現をするのではなく、明確に「家系」「国家」と言えばわかりやすいはずだ。それなのに、そう言わないのは、神の存在感や神秘的な雰囲気という魅力を、そこに見い出しにくいからなのだろうと思うのだった。
 彼は、職業柄「遺志」という言葉を頻繁に頭に思い浮かべる。目の前に文字として感じる時すらある。職業病かなと冗談で言うときがあるぐらいだ。
 自分の遺志が後世に伝えられて、少しずつ実現していけば、それはそれで自分の命を誰かが代わりに使ったという形とも解釈できそうだ。これこそある程度は「永遠の命」と言えそうではないか。命のつながりが縦にも横にも広がり、寄ってたかって自分の遺志を実現していくのだ。
 それは個人的な幸福の追求というケチなものではなく、時の流れの中で寄り集まり、つながり合って増大した遺志だ。それは「大志」となって燦然と輝きながら、人々を幸福にしていく可能性が高い。多くの者の大志となった以上は、社会の改善や変革にかかわるものである可能性も高いからだ。
 これならば、お飾りの単なる決まり文句ではなく、神秘的な雰囲気づくりのための言葉でもなく、実質的に意味のある、ほぼ「永遠の命」と言えるだろう。逆に、「大志」が実現しにくいものであればあるほど、つまり時間がかかる分だけ、そうしたネットワーク化した命の永遠性が保障されるとも言えるだろう。
 既存の宗教では、どのように命というものをとらえ、どのように位置づけて教えているのだろうか。伝統ある宗教を超えたものに仕上げていくには、そうしたものも調べておく必要がある。実に面倒な手段を選んでしまったのだろうと思うが、こだわりはないのだ。宗教路線から、別路線に変わっても別段問題はないのだから。

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「がんばったら疲れる。疲れたら休む。休んだらがんばる。」ということにしておこう。
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