生首は怖い。しかし、干し首はあまり怖くない。
干し首は形が整えられている。しかし、生首は形が整えられていない。干し首は干す過程で形が整えられる。干す準備でほぼ形が決まるのだ。
しかし、生首は放置されている。腐り放題で、ウジも直ぐにわく。鳥もつつくから、ますます形が崩れてしまう。
人の表情は整っているから美しい。表情は、その整った形から決まったパターンで変化するものだから、たとえ悲しい表情であっても、それはそれで美しい。
ところが、生首はパターンのない変化をしていく。それが恐ろしく感じる主な原因だ。表情というパターンの決まった変形ではないから、読みとれる感情がないのだ。そこには感情ではなく、死そのもの、意味のない変形があるばかりだ。
朽ちていく姿、朽ちていく色、皮膚によって美しく透けて見えていたものが正体を現すという醜態。表情によって感情という意味を、目に見えぬ幻を手に取るように美しく見せていたものを、全て脱落させた単なるタンパク質の塊、骨の塊だ。
だから、物だと思えば何でもない。食卓の魚の焼死体、ミンチの肉塊、削ぎ落とされた肉片。それらが焼ける臭いを想像してもよい。よく考えてみれば、日常的な物だ。
そのように食物だと思えば何でもない。実際に食する輩もいるようだが、それはやり過ぎだ。単なる手段を目的にして、実行に至れば、その人間は狂気の人と評価されることになる。想像の中で憎い奴をぶん殴ってストレスを解消するのは無罪だが、実際にぶん殴れば有罪だ。それと同じだろう。
食物だと想像するのに抵抗があれば、何かの小動物の死体ぐらいに考えればよい。駆逐されるべき、害獣だ。
もちろん、最愛の家族の生首であれば、そのように想像することには抵抗があるに違いない。そのときは、元人間の頭部であっても、死んでしまえばただの物だと思うことだ。単なる物体だと割り切ることだ。肝腎の魂は昇天したと考え、冥福を祈るばかりにすればよい。
それもできない場合は、これから火葬する頭部、埋葬する肉体の一部だと、嘘偽りない現実としてとらえるしかない。
生首そのものを見てしまうから、生首そのものを受けとめてしまうのだ。それをどのようにしていくかという一連の流れの中でとらえれるようにして衝撃やら恐怖を緩和するしかないだろう。火葬する、埋葬する、犯人を捜す、仇を討つ、仇を討った後始末をする、菩提を弔う、というような長い長い道のりを分母とするのだ。
つまり、全体の流れの中の一部だという受け止め方だ。生首と対面した衝撃と恐怖を固定した分子とし、逆に分母は大きくしていくのだ。これで恐怖が何分の一にかなるだろう。意識の問題だ。心の持ち方の問題だ。
だが、人情として、たとえ最愛の家族であっても、死体を怖いと思うのは、なぜだろう。それは死んでいる肉体だからだ。死という非日常が怖いだけだ。生首が話しかけてくるわけでも何でもない。肉体を探して飛び回るわけでもない。話しかけるのは生きている関係者の方であり、残りの肉体を探し回るのも生きている関係者だけだ。最愛の家族の思い出が恐怖の思い出に変わるわけでも何でもない。
したがって、先ず第一に、生首も皿の上のまだ焼かぬ前の肉塊だと思うことだ。第二に、特に形が整えられていれば怖くないから、形を整えることだ。腐って形が変形しなければ怖くないものなのだ。第三に、形を整えた生首を冷凍することだ。冷凍することで、生首は生首でも、好みの表情に固定された冷凍生首となり、生前の表情を想像しやすく、その心も感じ取れそうなので、怖くはない。怖いのは解凍後だ。第四に、常日頃から顔写真を眺める習慣を身につけておくことだ。写真なら生首状態だからだ。常に生首を見ている感じに慣れておくことだ。そして、その写真通りの表情で冷凍固定することだ。
しかし、既に表情を整えられないほどに傷んだ状態の生首は怖いだろう。その時は、頭部だけでも火葬し、懇ろに弔うことだ。
ただ怖いのは、生首以外の肉体の行方だ。それが分かっていて正規の手続きで既に処理されていれば何でもない。しかし、まだ見つからない状態であるならば、いくら冷凍生首でも怖い。生首以外の肉体が、何処でどうなっているかを想像してしまうばかりだからだ。
首塚というのは、生首だけしか手に入らなかったものだろうか。戦乱の中では仕方なかろう。それとも、五体満足の遺体で火葬して埋葬すると、甦るおそれのあるほどの怨念があり、それを断ち切るために首だけを葬った塚なのだろうか。それはそれで恐ろしい。
博物館などで、頭蓋骨が綺麗に陳列されていることがある。変形するところのない究極の表情だ。だから、かつては生首であったのだけれど、昔の物であり過ぎて恐怖は感じない。既に考古学の手の入った、学術的な存在だ。だから、抵抗なく手に取れる。
これが乱雑に転がっていると恐ろしいのかもしれない。それも半分土に埋まっているような、手つかずの状態のものであれば、尚のこと恐ろしかろう。肉片が残っていれば更に事件性が高く、より恐ろしかろう。まだ事態が生々しいということだ。より生きている物に近い存在だということだ。それが恐怖を感じさせる。
位置や向きを整えられて陳列されてから怖くはないということもある。それは分類され、整頓されているということだけではない。たとえば、無数の生首であったとしても、はしゃぐ巨大なパンダの形に組み上げられていたとしたら、もしかするとほほえましく思ってしまうのかもしれない。恐らくそうなるだろう。そんな人間のいい加減な感覚のほうが、なんか怖いような気がする。
すると、江戸時代まであったようなさらし首は、より効果的に見せしめるためには、棚板の上にきちんと並べるのではなく、微妙な位置、微妙な向きに乱雑に並べるべきであったろう。なんなら太陽の移動に合わせ、時計仕掛けで回転させ、陰影が効果的にあらわれるように、工夫すべきであったろう。
そこまでやると、下手をすると見せしめではなく、単なる滑稽な見世物となったり、遺体を弄ぶことにもつながり、顰蹙をかう原因になったりしかねない。刑の執行は死後も続くというものだが、死後はそれなりの扱いを受けるべきだという感覚もあったからであろう。
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