変な疑問258「般若心経から珍説出せるか」⑥

 空耳が、歴史や人との運命を大きく変えた例は、これまでにも非常に多くあったことだろう。歴史がドラマチックに展開する国というのがあれば、その国の言葉は、空耳を発生しやすい言語を使用している可能性がありはしないかと疑ってみる価値がありそうな気がする。
 たとえば、大声で叫び合う中国語などは、案外と似たような発音などがあって、日本人は特にそうかもしれないけれど、判別しづらいものが意外と多い。そのため、空耳の現象が起こりやすいように感じてしまうのだが、どうだろうか。
 歴史が変わるとか、人の命にかかわるとか、そうした笑えない話しとして、中国ではないが、とある国の軍隊の司令官の咳かクシャミを「皆殺し」と聞き取った兵士たちが、無抵抗の市民を殲滅してしまったというような、まことしやかな話が聞こえてこないでもない。ちなみに、慌てて銃撃を制止しようとしたが、発砲音で声が伝わらず、既に手遅れだったようだ。
 もっとも、発砲音の嵐で指示が聞こえないという状況を作ってしまうこと自体が、組織的な攻撃ができないことの証明のようになってしまうから、少し眉唾の話だとは思うが、絶対と言ってよいほどに、似たようなことはどこかで起こっていると思う。「事実は小説よりも奇なり」というが、ここまで生きてきて、確かにそうだと思うことが多いので、おそらくは実際の事件なのだろうなとは思う
 さて、一方、そうした言語の問題ではなく、聞く方の認知機能の低下が原因となっている空耳もあるだろう。
 仮に山で襲撃されたのならば、山賊的な輩だろう。夏であれば、山の中で水分補給もままならぬ状態で、獲物となる旅人を待ち続けていた可能性もある。すると、脱水症状を起こしかけていた可能性もある。そのようなへまは、新米の山賊か、高齢の山賊か、そのどちらかだろう。下手をすると、よい獲物が見つからず、半ば栄養失調のような厳しい状態であったかもしれない。
 栄養失調の傾向や、脱水症状の傾向があったときの、認知機能の低下は有り得ることだろう。そうなるまで、山から下りてこられなかったのは、獲物の息の根を止めそこなったために通報されて追っ手がかかり、山狩りの憂き目に遭って逃げ惑っていたのかもしれない。
 あるいは、行き倒れ寸前の普通の人が、背に腹は替えられず、にわか追い剥ぎになって、襲ったのかもしれない。偽物の山賊だからたいしたこともなく、肉体的にもやつれているので、対応しやすかった可能性もあるだろう。
 通常の山賊であれば、いくら専門職による呪文であっても、それ相当の理由がなければ、退散しないと思うのだ。
 このように、いつどこで玄奘が襲われたかということも問題だが、より「珍説」にするならば、玄奘がどんな言葉を話す人に襲われたかということを問題にすると面白いかもしれない。
 さて、唐の時代は特にいろいろな国から外国人がたくさん入ってくる時代だ。
 あまりにも大雑把な捉え方だが、玄奘の辿ったルートは恐らくは、中国も含めてだが、全てインド・ヨーロッパ語族の地域を通っていると思う。だから、現代の英語や古い時代の英語の両方に、ある程度発音が似ているような単語、それが、いつの時代でも使われるような基本的な単語があれば、それらを含むような言葉を使う、悪しき者たちもいたのではないかと見当をつけてみたい。この乱暴な検討のつけ方こそが、「珍説」の由来となるだろう。
 インド・ヨーロッパ語族の地域は広大だが、玄奘の歩いたルートも相当のものなので、規模としては相応しくないとは言い切れないように思ったのだ。
 特に、歩いたルートの西端は、バーミヤンとかガンダーラのあたりに達しているので、それより西に足を伸ばさなかったとしても、そのあたりは恐らく東西の交通の中心地、東西の文化が交錯する地だから、悪しき者の類も西から東へ流れ流れ、その地に至り、さらに東へと活動の地を変えながら、移動していった者もいるだろう。
 もともと悪しき人ではなくても、反社会勢力か、商人崩れかわからないが、そうした者たちも、物流や人の交流、そうした繁栄の中で、少しずつ増えていっただろうと思う。しかし、やがては食い詰めたり、自分の欲望を果たしたりするため、旅の人々を襲うようになり、それが噂が噂を呼んで、ついには悪しき者として恐れられたのではないか、とも想像してしまうのだだ。
 そうなると、今の英語の祖先のような言葉も、ペルシャ語やその他の言葉と交じりながら、かの地に渦巻いていた可能性も一緒に想像すべきだろう。
 枝葉末節のあまり使用しない単語ならば、いざ知らず、特に基礎的な意味の現代英語の単語ならば、発音や綴りなどが変形しているだろうけれど、何となく似ている可能性もゼロではないだろう。
 では、「般若心経」の呪文部分を、無理やりに現代の基礎的な英単語でなぞってみると、どのようになるだろうか。つまり、英語に少し似たような言葉での、空耳を疑ってみようと思うのだ。何にしても、突拍子もないことが「珍説」の特徴の一つだから仕方ないと思う。
 悪しき者が、サンスクリットの呪文を、もしかすると似た発音の別の言葉に聞き取ってしまったかもしれないという言葉の可能性だ。その別の言葉は、悪しき者が使っていた言葉だったかもしれないが、悪しき者が聞き知っていた言葉だったかもしれない。
 勿論、空耳だから言語学的な変化の法則とかは無視、また、必死の叫びだから文法も無視だ。そのあたりは別段問題はないだろう。
 例によって、十種類挙げて、最も面白そうで、最もそれらしいものなものを選びたいところだが、今のところ二種類しかまだ思いつかない。これでは認知症が危ぶまれる。

①「Get away.Get away.Hurry.Get away.Hurry,so get away.Bodies wake. 」

 「羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶」を、空耳でこのように聞き取ってしまったら、確かに怖くて退散するかもしれない。日本語にするとこんな感じだろうか。「逃げろ!逃げろ!早く逃げるんだ!早く!そう、逃げるんだ。死体が目を覚ますぞ。」このように聞こえたかもしれないのだ。
 どれも基本的な単語だから、今の言葉と大きく変わらないことを期待してみての空耳変換だ。それも、東西の交通、文化の交錯する地が現場であると想定しての、淡い淡い期待にもとづく空耳内容だ。
 僧形の者が、このように繰り返し必死で叫び唱えれば、ゾンビにやられてはかなわないと恐れおののいて逃げ去るかもしれない。恐らく長旅のため、そしてお経を大量に持ち帰らねばならぬため、大きな密閉式の箱を運んでいたと想像する。大事なお経を濡らすわけにはいかないからだ。その大きな箱が、もしかすると棺桶に見えた可能性はなかろうか。漫画のような展開だが、現実というものは得てしてそういうものだ。
 私たちは、やばい遺体を運んでいるのだから、滅多なことをするもんじゃないぞ、近寄るんじゃない、早く立ち去れ、と叫んでいるように見えたという「珍説」だ。
 実際には逃げ去らずに、不気味な者を見る目でやり過ごした可能性もある。また、悪しき者といっても無慈悲な強盗のようなものではなく、もっと温和な貧乏人集団に過ぎない可能性もある。
 ところが、物語になったり、体験談となったりすれば、ありがたい呪文の効果があり、おかげで悪しき者を退散させることができたという内容に進化するのは、全く普通のことで、何の不思議もない。
 特に中国の物語は、そこが面白いところでもあるのだが、大袈裟だ思うところは、それなりに適当に割り引いて読んだり聞いたりすればよい。
 根拠が怪しく、説としての態をなしていないように見えるが、「珍説」だから、このぐらいでないと「珍説」にならないだろう。これで一つ完成だ。
 あと九種類の空耳を考えることは難しいが、「hurry」を「harry」に置き換えるという手はあろう。だが、この手の空耳からは、今のところ二種類のものが考えられないという体たらくだ。
 ところが、「harry」の意味は「略奪する」だから、何とか恐ろしい文章を考えることができるかもしれないと思うものの、最後の「菩提薩婆訶」の空耳が思いつかない。
 もしかすると、「Bodies back」と聞こえたかもしれないが、その時は、「死体は戻る」とか「体はバックする」とか解釈することになるのだろうか。
 「死体は戻る」というのは、どこから戻ってくるのかわからないところもあって変なのだが、一応恐ろしいものだ。それに「死体は戻る」を「生き返る」と考えれば、ゾンビっぽく聞こえ、もし荷物を棺桶と勘違いしてくれれば、それも恐ろしかろう。
 「体はバックする」というのは、何度も叫び唱えれば、「立ち去れ」というような意味合いともなろう。
 これは、うまく前半部分の空耳を考えれば、何とか「珍説」の二つ目になるのかもしれない。しかし、いよいよ三つ目以降は、空耳ではない何かをでっち上げる必要がありそうだ。こうなると、なかなかに「珍説」であってもでっち上げが難しい。
 ちなみに、空耳の「空」も、俯瞰する「空」からの目も、「般若心経」で語られるところの「空」も、文字が同じであるだけに、三つとも別々の「空」でありながら、ふわっとしたイメージだけは、何とかかろうじて共通しているように思う。それもまた、なんとお気楽な捉え方だと、自分のことながら驚くばかりだ。

どこにいるの? について

「がんばったら疲れる。疲れたら休む。休んだらがんばる。」ということにしておこう。
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