怪しい広辞苑68「第四版79ページ・綾子」

 これはよくわからないが。第四版79ページ「綾子」の説明。
 綾子とは女性の名前ではなく、「あやっこ」と読むらしい。「(×印のことで、魔除けのしるし)生まれた子を初めて宮参りさせるとき、額に鍋墨か紅かで魔除けとして「×」「犬」「大」などのしるしを書く風習。やすこ。」とある。なんだこれは。
 ほんとうに「×印」なのだろうか。「ばつじるし」とはどういうことなのか。このような否定的な記号を子どもの額に書くというのは、特別な意味を持たせているか、最初から「ばつじるし」ではないものだったかだ。魔除けという目的が確かだと仮定して、少し想像してみよう。
 「×」が「ばつじるし」の場合。子どもは無力で魔に侵略されやすいという考え方があれば、額に「ばつじるし」を書いて、「これは人の子に見えるかもしれないが、人ではないぞ」と主張し、「侵略されやすい存在である幼子」だということを否定することもあろう。
 「×」が「ばつじるし」ではない場合。単なる記号でなければ、漢字かもしれない。漢和辞典をひもとくと、「乂」という字がある。音読みで「ガイ」、訓読みで「おさめる」だ。簡単な字なのに習わない。大辞典は買えないので、旺文社の漢和中辞典を使っているが、広辞苑と一緒で年に一度ほどだ。以下、抜粋。「①かる。草を刈る。②おさめる。おさむ。(治)③すぐれる。(傑)すぐれた才能。また、その人。④こらしめる。【乂安】国が安らかに治まること。【乂寧】世の中が治まって安らかなこと。」とある。
 こうなると、やはり漢字であると考えるのが自然だと感じる。幼子の額に「乂」を書いた理由が普通に理解できる。心身共にまだ不安定な幼子が健康に育ちますように、丈夫に育ちますように、すぐれた人となりますようにと神に祈るためだ。
 さて、「犬」「大」とも書くと広辞苑では説明されているが、この順番で進化したものだろうか。「×」や「乂」がスタートとするなら、特別な事情がない限り、「大」→「犬」の順に複雑化するのが自然ではなかろうか。
 それはともかく、「大」の字を書くことは何の意味があるのか。単純に「乂」に一本付け足せば「大」の字になる。「大」の字を書くことは「大きく育て」という願いを示したものだろう。あるいは、もしかすると、その意味を持たせつつ、「人」という字を「一」という線で消したということを示しているかもしれない。これは先に述べた「これは人の子ではない。だから侵略しても価値はないぞ」という宣伝になる。
 飛躍するが、「大」は「士」の変形かもしれない。「士」は男性器を表している。これに対して女性器はなんとなく「小」で表せそうだ。すると、「大」と「小」という対ができる。そこで、男の子には「大」、女の子には「小」と額に書けば、男子か女子か分からない幼子の性別を明らかにするとともに、性器の形を象徴する漢字の対から出発し、「男は大きく丈夫に育て、女は小柄に美しく育て」という品のよい願いに変調することができる。
 もし、性器の象徴であれば、「男は子どもを産ませる力を持て、女は子どもを産む力を持て、そうなるまで育て、そして子どもを産め。今おまえが子どもであるように。」こんな調子の願いになろうか。まさしく「むすこ」「むすめ」となれだ。「むす」は「苔生す」の「むす」に通じるように感じる。
 生まれて間もない幼子をお宮に連れて行くというのだから、願を掛けるに決まっている。それがどんな調子の願いであれ、親心には違いない。
 さて、「犬」を書くとはどういうことだろう。時代劇で犯罪者が額に「犬」の彫り物をされていたのを、なるほどと感心してみていたものだが、これとイメージがダブってしまい、お宮参りの幼子の額には不釣り合いな文字だと感じてしまう。
 無理矢理に先程の流れを汲んで「人ではない、これは犬なのだぞ、だから侵略しようとすればひどい目に遭うぞ。」という感じで解釈してしまっていいのだろうか。あるいは、「犬」を安産・多産というイメージでとらえ、「犬にあやからせていただきました。そのおかげでお産も無事に終了しました。どうもありがとうございました。このとおり犬という字で飾っておりますよ。」という気持ちを表しているのかもしれない。少なくとも犬帯をしめる風習は、実用的な面を持っていることもあり、広く現代でも見られると思う。
 それにしてもなぜ「綾」というのだろう。確かに「乂」は見た目が綾だ。縄跳びの綾跳びもこんな感じでクロスする。普通見かけない「乂」という漢字を、見た目から綾と呼んだのだろうか。「子」はただの接尾辞だろうと思うが、どうだろう。
 ここは「魔除けとして「×」「犬」「大」などの」でいいのかもしれないが、「魔除けとして「乂」「大」「犬」などの」としてはどうだろうか。漢字ばかりで三つ画数順に並べるのだ。その方が統一性があっていいように思うのだが。

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